プロジェクト推進
混乱したプロジェクトに入って最初にやる3つのこと
公開日: 更新日: 著者:内海 悠人(Mac-bc株式会社 代表)

結論
混乱したプロジェクトに途中から入る時、私が最初にやることは3つです。
- 情報収集:人に聞く前に、まず自分で資料を読む
- コミュニケーション:相手によって、聞く内容も関わり方も変える
- ブレスト(自由に意見を出し合う場)と課題の棚卸し:集めた情報を、関係者と一緒に形にする
特別な手法があるわけではありません。当たり前のことを、当たり前に積み重ねていく。その根っこにあるのは、否定しない、犯人探しをしない、という姿勢です。
Mac-bc株式会社の代表の内海悠人です。私はこれまで、止まった、混乱したプロジェクトに途中から入って、もう一度前に進める役割を担ってきました。この記事では、その時に最初にやっていることを、実際の流れと一緒に書きます。
混乱した現場に入って、まず感じること
混乱したプロジェクトに入ると、まず肌で感じるのは、独特の空気です。焦りや、ピリピリした緊張感が、誰の顔にもにじんでいます。
そしてもう一つ、いつも感じるものがあります。「知らない人が、また入ってきた」という警戒感です。ただでさえ混乱している現場に、外の人間が入ってくる。「荒らさないでほしい」「余計なことをしないでほしい」。口には出さなくても、そう思われていることは少なくありません。むしろ、それが自然な反応だと思っています。
こういう現場で、いきなり解決策を出しても、うまくいきません。まだ何も分かっていない状態で動いても、的外れな対応になるだけです。何より、まだ何も信頼されていません。
だから、最初の3つは、どれも「分かる」と「信頼される」のためにやっています。
1つ目:情報収集。まず、自分で確かめられることを確かめる
混乱した現場に入ってすぐ、人に話を聞きに行くわけではありません。最初にやるのは、すでにある資料に、自分で目を通すことです。
このプロジェクトの目的とゴールは何なのか。要件定義の仕様書(何を作るかを決めた資料)はどうなっているか。詳細設計書(どう作るかを細かく決めた資料)には何が書かれているか。こうした資料を、できる限り自分の目で確かめてから動きます。
理由は単純です。何も分からないまま人に会って「教えてください」と聞くのと、ある程度の前提を頭に入れたうえで「ここまでは資料で分かったのですが、ここから先を教えてください」と聞くのとでは、相手の受け取り方がまったく変わるからです。前者は、相手にとって「一から説明しなければいけない負担」になります。後者は、「話が早い人が来た」という安心につながります。
資料が無いことも、大事な情報
混乱している現場では、資料が整っていない、あるいは古いままになっていることも珍しくありません。それならそれで、「どこまでが資料に残っていて、どこからが残っていないのか」をつかむこと自体が、大事な情報収集になります。
最近は、この資料の読み込みや、議事録の整理にAIを使っています。量の多い資料から、目的、決まっていること、決まっていないことを先に抜き出してもらうと、人に話を聞きに行くまでの時間が短くなります。社外秘の資料は、お客様ご自身の環境でAIを使って処理していただく形にしています。
「確認させてください」という形で場をつくる
資料に一通り目を通したら、次は、「認識と理解が合っているか、確認させてください」という形で、話を聞く場をつくってもらいます。「いろいろと理解が足りない部分があるので、教えていただけますか」。そうお願いすると、相手も身構えずに、場を持ってもらいやすくなります。ここから、経営や管理職の方、現場の方それぞれとの対話が始まります。
資料や状況を確かめる時に、具体的にどんな項目を見ておくべきかは、チェックリストとして別の記事にまとめています。
関連する記事:プロジェクトが止まった時に、経営者がまず確認すること
2つ目:コミュニケーション。相手によって、関わり方を変える
混乱している時に、いきなり「では状況を教えてください」と聞いても、あまりうまくいきません。相手は疲れていたり、警戒していたり、「また外から誰か来て、かき回すんじゃないか」と身構えていたりするからです。
そこで意識しているのが、経営や管理職の方と、現場の方とで、聞く内容も関わり方も変えることです。現場やプロジェクトによって状況は毎回違うので、やり方を一つに決めているわけではありません。ただ、大まかにはこうです。
| 相手 | 聞くこと | 関わり方 |
|---|---|---|
| 経営者、管理職 | ビジネスモデル(利益を生む仕組み)、経営の課題、管理の課題など、事業全体に関わる話 | 忙しい中で時間をいただいているので、要点を絞って、テンポよく確かめる |
| 現場のメンバー | 業務の内容、業務の流れ、現場で感じている課題 | いきなり本題に入らず、雑談から。今の状況を分かっていることを伝え、少しずつ警戒をほどく |
現場の方は、日々の業務の中で疲れていることが多いので、まずは気持ちの面のケアのような関わり方を大切にしています。
使い分けている、という話ではない
相手によって関わり方を変えるのは、打算で使い分けているという話ではありません。相手が置かれている状況や、前提が違う以上、同じ接し方では、どちらか一方にしか響かない。それだけのことです。
経営の方に現場の言葉で話しても伝わりにくいですし、現場の方に経営の言葉で話すと、距離を感じさせてしまいます。相手の立場に立って、伝わる言葉を選ぶ。これも、経営と現場の間に立つ役割の一つだと思っています。
集めた話を、突き合わせる
そうやって集めた情報は、ばらばらなままでは意味がありません。経営が見ている景色と、現場が抱えている実態を突き合わせながら、今の状態を整理し、どう仕組みにしていくかを考えます。ここまでできて、初めて次の3つ目に進めます。
3つ目:ブレストと課題の棚卸し。集めた情報を、みんなで形にする
資料を読み、経営と現場の両方と話を重ねると、ばらばらだった情報が少しずつ集まってきます。ただ、この時点ではまだ、それぞれの立場から見えている景色が、ばらばらのまま並んでいる状態です。
そこで次にやるのが、関係者を集めてのブレストと、課題の棚卸しです。
同じ場で、難しければ個別に
基本は、関係者を同じ場に集めて行います。ただ、状況によっては、それが難しいこともあります。利害がぶつかっていたり、立場によって話しにくいことがあったりする場合は、チームごと、あるいは個別に集まってもらいます。
その場合は、私が間に立って、それぞれの話をつないでいきます。Aチームで出た課題を、Bチームにどう伝えるか。現場の実態を、経営にどう伝わる言葉にして届けるか。話の集まる場所、つなぎ役になるイメージです。
頭の中の課題を、目に見える形にする
同じ場でも、個別でも、目指すところは同じです。誰か一人の頭の中にだけあった課題を、目に見える形にして出すこと。ホワイトボードでも、資料でも構いません。
そうすると、初めて見えてくるものがあります。AさんとBさんが、同じ課題を別の言葉で話していた。経営が気にしていることと、現場が困っていることが、つながっていた。こうしたつながりは、一人ずつ個別に話を聞いているだけでは見えてきません。
全部を一度には直さない
棚卸しした課題は、優先順位をつけて整理します。すべてを一度に解決しようとはしません。まず何から手をつけ、何を後回しにするのか。ここまで整理できて、ようやくプロジェクトは、立て直しの一歩目を踏み出せる状態になります。
心構え:否定しない、犯人探しをしない
情報を集め、話を聞いていく中で、一つだけ崩さないようにしていることがあります。否定しない、犯人探しをしない、ということです。
混乱している現場に入ると、「なぜこんな状態になったんだ」「誰の責任だ」と、原因や責任を追いかけたくなる場面が何度もあります。でも、それをやってしまうと、話してくれるはずだった人が、口を閉ざしてしまいます。
私がその場に入った時点で、すでに起きてしまったことは、変えられません。変えられるのは、これからです。だから、過去を裁くのではなく、今の状態を一緒にどう良くしていくかに意識を向けます。これはきれいごとではなく、そうしないと必要な情報が集まらない、という実務の理由でもあります。
実際のプロジェクトでは、どう進んだか
ここまでの3つを、実際のプロジェクトに当てはめると、こういう流れでした。エネルギー業の会社の案件で、私が途中から、PM(プロジェクトマネージャー)と営業を任されたプロジェクトです。
入った時点で、お客様、メーカー(ツールを作っている会社)、当時の私の会社の3社の間で、説明が食い違っていました。営業の段階でお客様が聞いていた話と、始まってからの説明が違い、仕様の変更とスケジュールの組み直しが続いていたんです。
| 段階 | やったこと |
|---|---|
| 情報収集 | 計画を見て、開発の工数が足りないこと、スケジュールに無理があることに気づき、現場に確かめた |
| コミュニケーション | お客様に今の状況をそのまま説明し、なぜこうなったのかを伺う場と、相談の場を設けた。当時の担当者の間で「言った、言わない」が多く出ていたので、3社それぞれに話を聞いた |
| 課題の棚卸し | 3社の状況と取れる対応を整理し、落としどころを探った。作業を一度止め、優先して開発したい内容を棚卸しし、範囲を絞り、期間を区切って進めることにした |
| その後 | お客様と一緒に優先順位を決め、課題の一覧で課題を管理し、計画表(WBS)を作り直した。週に1回、進み具合と状況を報告し、共有した |
この時も、誰が悪かったのかを追いかけることはしませんでした。言った、言わないを裁くより、何が約束されていて、何が約束されていなかったのかを、3社で同じものとして見られるようにする方が、ずっと早く前に進めます。
立て直した後、お客様の責任者に経緯を説明したところ、同じツールを導入していた親会社と関連会社の情報システムの責任者を紹介していただきました。
詳しい経緯と、続けるか、仕切り直すか、やめるかの判断については、別の記事に書いています。
関連する記事:プロジェクトが止まった時に、経営者がまず確認すること
入る前に、そろえておいてもらうと早いもの
外から人を入れる前に、次のものをそろえておいていただけると、最初の3つがずっと早く進みます。全部がそろっていなくても構いません。無いものが分かるだけでも、大事な情報です。
| そろえるもの | 中身 |
|---|---|
| プロジェクトの資料 | 目的とゴール、要件定義の仕様書、設計書、計画表、課題の一覧、議事録 |
| 契約の資料 | IT企業との契約書と見積もり。何を、どこまで頼んでいるか |
| 話を聞ける人 | 経営、管理職、現場、IT企業の窓口。それぞれ誰に聞けばいいか |
| 決める人 | 最後に決めるのは誰か。現場のキーマン(話をまとめる中心の人)と分けて |
よくある質問
どれくらいの期間で、状況が整理できますか
プロジェクトの大きさや混乱の度合いによって違います。情報収集とコミュニケーション、課題の棚卸しまでなら、早ければ数日、複雑な案件でも数週間ほどで、大まかな全体像は見えてきます。Mac-bcに頼んでいただく場合は、現状の整理に約2週間、調整と立て直しに約2〜4週間を目安にしています。そこから実際に立て直していく期間は、状況によって変わります。
現場から反発されることはありますか
正直、まったく無いとは言えません。特に、外から人が入ることに慣れていない現場では、最初は距離を感じられることもあります。ただ、否定せず、丁寧に話を聞く姿勢を続けていくと、少しずつ態度が変わっていきます。焦らず、時間をかけて信頼を積み重ねることを大切にしています。
すべての情報を集めてからでないと、動き始められませんか
いいえ。情報収集、コミュニケーション、課題の棚卸しは、きっちり順番どおりに進むというより、実際には並行して進むことが多いです。ある程度の全体像が見えた時点で、優先度の高い所から手を打ち始めることもあります。

